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これはちっとも可笑おかしくない!彼ら二人は実にいい夫婦なのである。
「いや、私はすぐこの近くで医者をしとる、高間といふ者ですが」
「それに――」
喜作は、
座敷へ案内されて、まず自分の居どころが決まると、携帯の荷物をかたづけて、型のごとくに入浴する。そこで一息ついた後、宿の女中にむかって両隣の客はどんな人々であるかを訊きく。病人であるか、女づれであるか、子供がいるかを詮議した上で、両隣へ一応の挨拶にゆく。
「ねえ。――はやく。――患者ですわ」
練吉は今更のやうに、あらためて房一の様子を、その新調の自転車や医者らしい鞄などに目をやつた。すると、それらは今新しく練吉の前に彼の持物と同じものを感じさせ、更に、今まで耳にしていたものの、つひぞ気にもとめずにいた医師高間房一といふ人物がそこに忽然と姿を現しているのをいやでも見なければならぬと感じさせた。それは何故かどこかで練吉の自負心を傷つけ気を苛立たせるものだつた。
房一はさつき起き出したばかりであつた。歯ブラシをくはへると、井戸端で向ふむきにしやがみこんだまゝ、何をしているのかまだ顔も洗はないやうであつた。その円く前こゞみになつた、背中から、口のまはりに白い歯みがき粉をつけた顔がくるりと向きなほると、
黒光りのする戸棚の蔭からびつくりしたやうな義母の円つこい眼がのぞくと、
房一は擽くすぐつたさうな顔をしていた。
「あれですかね、やつぱり自分で歩かなくちやいけませんかね」
房一は鬼倉に向つて叮重ていちように云つた。